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東京地方裁判所 昭和56年(ワ)4071号 判決 1991年3月19日

原告

日本コッパース有限会社

代表者取締役

カール・ハインツ・マヤー

訴訟代理人弁護士

石川明

西村寿男

被告

明和監査法人

代表社員

浦野文彦

被告

加藤利勝承継人加藤晴雄

武藤智夫承継人武藤方子

武藤智夫承継人武藤百合子

武藤智夫承継人武藤勝彦

武藤智夫承継人千葉明子

武藤智夫承継人吉村恵美子

浦野文彦

高尾友三

長田静雄

桜井嘉雄

武田靖夫

中村孝

右被告一三名訴訟代理人弁護士

飯田隆

山岸良太

内田晴康

本林徹

古曳正夫

久保利英明

小林啓文

相原亮介

福田浩

同訴訟復代理人弁護士

増田晋

被告

東京海上火災保険株式会社

代表取締役

河野俊二

訴訟代理人弁護士

井波理朗

服部訓子

訴訟復代理人弁護士

太田秀哉

井堀周作

主文

一  被告明和監査法人は、原告に対し、四七七九万二七八二円及びこれに対する昭和五六年五月九日から支払い済みまで年六分の金員を支払え。

二  原告の被告明和監査法人に対するそのほかの請求を棄却する。

三  原告の被告加藤利勝承継人、武藤智夫承継人、浦野文彦、高尾友三、長田静雄、桜井嘉雄、武田靖夫、中村孝及び東京海上火災保険株式会社に対する請求を棄却する。

四  原告と被告明和監査法人との間の訴訟費用は、これを一二分し、その一を被告明和監査法人の、その残りを原告の負担とする。

五  原告とそのほかの被告との間の訴訟費用は、原告の負担とする。

六  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

一(債務不履行による損害賠償として)

被告明和監査法人は、原告に対し、六億〇五五一万八九二〇円並びに内金五億九二二九万四九二〇円に対する昭和五六年五月九日(訴状送達の翌日)以降支払い済みまで年六分の遅延損害金及び内金一三二二万四〇〇〇円に対する昭和五九年五月九日以降支払い済みまで年六分の遅延損害金を支払え。

二(被告明和監査法人が前項の金員の支払いができない場合、公認会計士法三四条の二二及び商法八〇条一項に基づく社員の責任の履行として)

被告加藤利勝、武藤智夫、浦野文彦、高尾友三、長田静雄、桜井嘉雄、武田靖夫、中村孝は、被告明和監査法人が前項の金員の支払いができない場合、連帯して六億〇五五一万八九二〇円並びに内金五億九二二九万四九二〇円に対する訴状送達の翌日以降支払い済みまで年六分の遅延損害金及び内金一三二二万四〇〇〇円に対する昭和五九年五月九日以降支払い済みまで年六分の割合による遅延損害金を支払え。

三(被告明和監査法人に代位してする保険金請求として)

被告東京海上火災保険株式会社は、原告に対し、二億五〇〇〇万円及びこれに対する判決言い渡しの日の翌日から支払い済みまで年六分の遅延損害金を支払え。

第二事案の概要

一争いのない事実等

1  (原告会社)

原告会社は、ドイツのクルップ・コッパース・ゲー・エム・ベー・ハーが、その子会社として、わが国の法律により設立した有限会社である。(争いがない。)

2  (監査契約)

昭和四七年一〇月被告加藤(旧姓高山)利勝は、原告会社の任意監査を依頼された。その後、この監査契約は毎年更新され、また被告加藤利勝は昭和五〇年七月被告明和監査法人を設立したので、被告明和監査法人が契約に基づく監査人の地位を承継した。(監査契約の更新を除き争いがない。毎年更新の事実は、<証拠>により認める。)

3  (適正意見を付した監査報告)

被告明和監査法人は、昭和五二年一二月三一日現在の原告の財務諸表について、昭和五三年一月及び二月に監査を実施して同年二月二〇日監査を完了し、同日付で、無限定の適正意見を付した監査報告書を提出した。(争いがない。)

4  (甲野の不正行為の看過)

しかし、昭和五二年一二月三一日現在原告には、原告の経理部長甲野太郎の不正行為の結果生じた次の事実があり、被告明和監査法人は、この事実を発見できなかったものである。(<証拠>により認める。)

三井銀行からの借り入れ 二億円

三井銀行に対する定期預金二億〇五〇〇万円の担保差入れ

住友銀行からの借り入れ 二億七〇〇〇万円

住友銀行に対する定期預金一〇〇〇万円二口の理由のない解約

支払手形 四億四一〇五万一〇〇〇円

5  (定期預金の担保差入れ)

右4の三井銀行及び住友銀行からの借り入れは、それぞれの銀行に対する原告の定期預金を担保とするものであった。(争いがない。)

6  (定期預金通帳の実査)

被告明和監査法人は、昭和五三年一月三〇日の監査手続きの実施に当たり、三井銀行の定期預金の証書、通帳を提出させなかった。(争いがない。)

7  (証明書の直接入手)

被告明和監査法人は、昭和五三年一月三〇日の監査手続きの実施に当たり、直接銀行から残高証明書その他の証明書の原本を入手しなかった。(争いがない。)

二争点

1  (監査契約の当事者)

原告が本件監査を依頼したか。

2  (適正意見を付したことの責任)

監査人の適正意見は、不正行為が存在しない旨を証明するものであり、そのような意見を付したのに不正行為があれば、監査人は、そのことだけで損害賠償の責任を負わねばならないか。

3  (注意義務の存否)

(一) (定期預金の担保差入れ(入担)の有無の調査)

定期預金の入担の有無が重要な監査要点であり、被告は、その点について監査をするべき義務を負っていたか。

(この点についての原告の主張)

(1) 日本の企業においては、原告会社程度の規模の会社が外部監査を依頼することは極めて少ないが、外国企業にあっては、経営手法の違い、社員の職場定着率の違い、株主の会社に対する発言力の違いなどから、外部監査の重要性が強く認識されている。

本件監査契約は、原告会社のオーナーである社員が原告会社の財政状態及び事業年度の利益を把握するための契約であり、オーナーである社員としては、重要な財産である定期預金が担保に入っているかどうかについて、大いなる関心があるから、定期預金の入担の有無も、このような監査契約の目的からして、重要な監査要点であった。

(2) 商法三二条二項は、商人が商業帳簿を作成する場合公正なる会計慣行を斟酌するよう命じているが、この公正なる会計慣行とは、大蔵省企業会計審議会が作成した企業会計原則をいうものと解されている(鈴木竹雄・会社法二四八頁、昭和四九年八月三〇日付け大蔵省企業会計審議会答申前文「企業会計原則の一部修正について」第二項)。

この企業会計原則第三貸借対照表原則の項の第一項Cには、入担資産の注記の義務が定められている。

(3) 株式会社の貸借対照表、損益計算書及び付属明細書に関する規則(商法計算書規則)四七条では、担保に差し入れられていることを貸借対照表に注記する義務を、資本金一億円以下の株式会社について免除しているが、これらの会社でも、同規則四五条一項五号で、付属明細書への担保差し入れの記載の義務が定められており、この付属明細書は、貸借対照表と一体となって、財務諸表を構成するのであるから、担保差し入れの有無は、重要な監査要点である。

(4) また、外資系の会社においては、付属明細書を監査の対象とすることは少なく、貸借対照表及び損益計算書を監査の対象とすることが多いが、貸借対照表の注記の欄に入担資産を注記する扱いをし、これを監査の対象とするのが通常である。このようなことから、原告においても、入担資産があるときは、これを貸借対照表に注記し、これも監査の対象にしてきたものである。

(5) 監査人は、善良な監査人の職業的専門家としての正当な注意をもって、その意見を表明しなければならない。その注意義務の程度を決定するのは、監査人が十分な満足に基づく確信をもって意見を表明するのに必要な、監査意見を保証するに足る合理的な基礎を得たかどうかの点にある。

このような基礎を得るための不可欠の手続きは、会社の内部統制組織の評価を行ない、その現状からみて重大な誤謬や不正が発生すると思われるような特定の部分を確定することにある。そして、その部分についての必要な監査手続きを実行することにある。

原告の組織は、経理担当者が甲野経理部長を含めてわずか三名で、甲野経理部長以外の担当者は女子事務員で甲野の命ずるまま機械的な事務を処理しているのみであるというように、小規模で職務の適当な分割が実際上不可能であった。そして、日本語を解さない二人の外国人が経営に当たっており、代表者印や手形小切手帳が甲野経理部長の保管に委ねられていた。原告会社の役員であったブーライクは、経理を担当していたことはなく、経理は、すべて甲野に任されていたのである。

被告明和監査法人は、このような内部統制が不十分な状況にあることを考慮にいれ、危険性の高い現金の管理や銀行関係の取引の処理については、特別の注意を払って監査するべきであった。

また、定期預金の金額の多さからみてこれが簿外の負債の担保とされる危険性について認識し、担保差入れの有無について監査するべきであった。

(この点についての被告らの主張)

(1) 本件監査契約は、被用者の不正行為の発見摘発を目的とする契約ではない。本件監査契約は、親会社が原告の投資価値を検証し、連結財務諸表を作成する目的から結ばれたものであり、その監査の具体的な目的は、期間損益の適正な確定、すなわち期間損益に影響する工事の完成、未成の区分、工事原価の計算について会計上適正な処理が行われているかどうかの妥当性の検証にあった。

(2) 商法三二条二項の公正なる会計慣行は、企業会計原則をさすものではなく、企業会計原則をもとに注記が義務づけられているという主張は失当である。

(3) 有限会社である原告に対する監査である本件監査においては、定期預金の入担の有無及び額の確認は、法令(証券取引法一九三条、昭和五六年改正前の株式会社の貸借対照表、損益計算書及び付属明細書に関する規則(商法計算書規則)二四条の二)上貸借対照表に入担資産を注記する規定がなく、会計慣行上も注記の慣行はなく、また、原告の監査対象である貸借対照表にもこのような注記がなかったことから、定期預金の監査の監査要点ではない。貸借対照表以外の財務諸表である付属明細書は、監査対象でないので、付属明細書に入担を記載すべきであっても、入担の有無は、監査要点にはならない。したがって、被告明和監査法人がこれを確認しなかったことは、注意義務の違反にはならない。

(4) 原告の経理については、親会社から、経理専門のブーライクが取締役として派遣されており、帳簿類は、英語で作成されるなど、甲野経理部長を監督する意思があれば、継続的にすることが可能な態勢ができていた。このような態勢は、代表者印の保管等に関する内部統制組織の不備を補って余りがある。

甲野は、原告からの信任が厚く経営幹部に準ずる地位にいたものである。被告明和監査法人が甲野が個人的な不正行為をしているという疑念をもたないで接したからといって、何等避難されるべきではない。

そして、疑いを抱くような事情があれば、確認するべきかもしれないが、次の事実があり、疑いを抱かせるような事情はなかった。

ア 原告は、その経費を注文主からの前受金で賄い、下請けに対しては前受金が入金してから下請け代金を支払えば足りるという特殊な業務内容であって、借入金を必要としない財務体質であった。そのため、原告に定期預金を担保とする借り入れがあるとは考えられなかった。

イ 現に従来も期末に借入金が存在したことはなかった。

ウ 加えて、昭和五二年度末においても、会社の帳簿上においても決算書上においても借入金の痕跡は皆無であった。

エ 一〇年余り原告の経理責任者として原告が信任してきた信頼すべき使用人である経理部長の甲野は、定期預金の書換のために通帳を銀行に預けていると説明した。

オ 原告の勘定元帳からも、経理部長甲野が後に提出した三井銀行日比谷支店作成の預り明細書からも、監査直前の昭和五三年一月二七日に満期が到来する定期預金が存在したことから、エの甲野の説明には不合理なところがなかった。

カ 右の三井銀行日比谷支店の定期預金の預り明細書にも、担保に入れられていることを窺わせる記載はなかった。

キ 同支店の預金残高証明書の正規のものが存在し、これと右の預り明細書と原告の勘定元帳の定期預金の残高は完全に一致していた。

住友銀行の口座番号一〇〇七二の定期預金通帳には、昭和五二年一二月二一日の一〇〇〇万円二口の定期預金の中途解約の記載はなかった。甲野は、中途解約の事実を隠ぺいするため、被告明和監査法人には、右の中途解約の記載のない口座番号一〇〇七二を提出したものである。

(二) (定期預金証書等の実査及び残高確認書の直接入手)

被告明和監査法人は、預金の残高確認及び入担の有無及び額の確認方法として、預金先からの残高証明書を求め、かつ、証書若しくは通帳を実査し、または預金先に対して確認を行ない、関係帳簿残高と照合すべき義務があったか。

(この点に関する原告の主張)

外国資本の企業及び合弁企業から任意監査を依頼された場合は、監査人は大蔵省企業会計審議会が作成した監査基準、監査実施準則、監査報告準則に基づいて監査を行なうことが、職業的監査人の商慣習になっている(昭和三一年一二月二五日大蔵省企業会計審議会中間報告「監査基準の設定について」は、法令により強制されなくても、常に遵守されなければならないとしている。)。

公認会計士法四三条二項、二五条、二六条に基づき公認会計士協会が制定した紀律規則二条、一〇条、一二条、一七条よりしても監査人は、右の監査基準等を遵守する義務がある。

監査実施準則は、預金の残高確認及び入担の有無及び額の確認方法として、預金先からの残高証明書を求め、かつ、証書若しくは通帳を閲覧し、または預金先に対して確認を行ない、関係帳簿残高と照合する、と定めている。

(この点に関する被告らの主張)

定期預金の入担の有無及び額の確認は、監査要点ではなく、定期預金の期末残高の確認のみが監査要点であったので、通帳の実査をせず、適格な監査証拠である預金残高証明書により、残高の確認をしたもので、過失はない。

企業会計審議会制定の監査基準、監査実施準則は、証券取引法監査(証取監査)を前提として、かつこれを標準化することを目的として制定されたものであり、また、わが国の主要な大企業である上場企業の会計実務慣行を前提にしている。したがって、有限会社の任意監査である本件監査には、直接適用がないのみならず、また、企業規模や会計の実務慣行の異なる有限会社にこれを類推適用するのも不当な結果を招く。

我が国では、被監査会社が取引先金融機関よりその作成した期末日現在の預金残高証明書を入手して、これを監査人に提出するのが監査慣行となっている。したがって、直接銀行から預金残高証明書を入手しなかったことは、過失ではない。

(三) (借入金の調査)

被告明和監査法人は、借入金の調査方法として、借り入れ先からの残高証明書を求めまたは借り入れ先に対して確認を行ない、借入金の明細表及び関係帳簿残高と照合し、勘定分析等により残高の妥当性を確かめるべき義務があったか。この借り入れ先とは、簿外負債の調査については取引金融機関をいうものであるか。

(この点に関する原告の主張)

監査実施準則は、借入金の調査方法として、借り入れ先からの残高証明書を求めまたは借り入れ先に対して確認を行ない、借入金の明細表及び関係帳簿残高と照合し、勘定分析等により残高の妥当性を確かめる、と定めている。この借り入れ先とは、簿外負債の調査については取引金融機関をいうものである。

同準則の11借入金(2)の規定は、簿外負債の監査手続きの例示にすぎず、貸借対照表に全く借入金の記載がない場合には、右の11借入金(2)の規定にある明細書、帳簿が存在しないので、借入金残高証明を得て、借入金の有無、残高を確認しなければならない義務がある。

(この点に関する被告らの主張)

借入金の調査について、監査実施準則の11借入金(1)の調査方法は、借入金の勘定残高が存在する場合のその額の当否を確認する手続きであって、簿外借入金の存否の確認手続きではない。簿外借入金についての監査手続きとして規定されているのは、右の11借入金(2)の前記の明細表および帳簿記録により内容を分析し、責任者に対して質問を行ない、すべての借入金が計上されているかどうかを確かめるということである。

4  (通帳の実査及び残高証明書の直接入手義務の懈怠)

(一) 被告明和監査法人は、監査の実施に当たり、三井銀行の定期預金の証書、通帳を提出させなかったが(この点争いがない。)、提出させていれば、右の銀行からの借り入れを発見できたものであったか。

(二) 被告明和監査法人は、昭和五三年一月三〇日の監査手続きの実施に当たり、住友銀行の定期預金の証書、通帳を提出させなかったか。

(三) 提出させていれば、そのうち通帳番号不明の通帳に、昭和五二年一二月二一日合計二〇〇〇万円の定期預金の中途解約の事実が記載されているのが発見され、甲野部長が、不正に発行した手形の決済資金を作るため、定期預金を満期前に不正に解約した事実が発覚していたものであるか。

(四) 被告明和監査法人は、直接三井銀行から残高証明書その他の証明書の原本を入手しなかったが(この点争いがない。)、直接入手していれば、右の銀行からの借り入れを発見できたものであったか。

5  (違法性を否定すべき事情の有無)

被告明和監査法人の取扱いについて違法性を否定すべき事情があったか。

6  (過失相殺)

(一) 原告の経営者である取締役に過失があっても、その過失に基づく取締役の損害賠償義務と被告明和監査法人の損害賠償義務とは、別個独立の義務であり、不真正連帯債務の関係にあるから、過失相殺をするべきではないか。

(二) 被告明和監査法人の加藤は、昭和四七年に代表取締役印の保管及び捺印方法を改善するよう代表取締役のインゲンホフに進言したが、同人は改善しなかったか。そして、甲野経理部長の不正行為が発覚しなかったのは、経理担当の取締役であるブーライクが通常では考えられない程に職務を懈怠し、甲野に対する監視監督責任を完全に放棄してしまったからであるか。

(三) 甲野が故意に不正行為をしたことも、過失相殺の事由になるか。

7  (損害)

昭和五三年二月二〇日以降の甲野の不正行為による原告の損害はいくらか。

8  (社員の責任)

被告明和監査法人は、積極財産が小額で賠償できないから、社員である被告らは、公認会計士法三四条の二二、商法八〇条一項により、原告の損害を支払うべき義務があるか。

9  (保険金請求権の代位行使)

被告明和監査法人には、資力がなく、民法四二三条の代位により被告東京海上火災保険株式会社に対する保険契約上の請求権の行使を認めるべきか。

第三当裁判所の判断

一争点1(監査契約の当事者)について

本件監査契約が原告を当事者として締結されたかどうかについて判断する。

証拠によれば、次の事実を認めることができる。

1  監査委嘱状は、親会社からのもののみである。

証拠<省略>

2  被告の前任監査人であるプライス・ウオーターハウス公認会計士共同事務所及びクーパース・アンド・ライブランド監査人は、監査報告書の正本を原告の親会社に送付していた。

証拠<省略>

3  本件監査報告書は、当初原告の社長宛に提出された。その後は、原告の社員に宛てて提出された。

証拠<省略>

4  <証拠>の委嘱状において、監査報告書の提出期限は、昭和四八年五月末とされた。しかし、原告の定時社員総会は、定款上毎年二月に開催される定めであった。また、原告の納税申告期限は、毎年二月末であった。

証拠<省略>

5  クルップ・コッパース・ゲー・エム・ベー・ハーは、監査報告書の内容自体に利害関係をもっていた。

証拠<省略>

6  クルップ・コッパース・ゲー・エム・ベー・ハー自身が、監査報告書を利用する目的を有していた。

証拠<省略>

右の事実関係からすると、本件監査契約は、親会社のみがその必要から締結したもので、子会社である原告は、契約の当事者でないかのようである。

しかし、証拠によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 欧米では、会社がその株主等に配付して自社の信用を高めようとする目的で、任意に監査を受ける例が多く、そのような慣行が定着している国もある。

証拠<省略>

(二) 原告の定款七条には、原告の社員総会には原告の取締役が監査人の監査を経た財務諸表を提出すべきものとされており、定款八条には、原告が監査人を選定するには、原告の社員総会の承認を要する旨の規定がある。

証拠<省略>

(三) 監査契約は、原告の当時の代表取締役であったインゲンホフと被告明和監査法人の加藤(高山)との間でその締結のための交渉がなされた。

証拠<省略>

(四) 被告明和監査法人は、監査報酬の請求を原告に対して行い、原告は監査報酬をその資金で支払い、監査報酬の額の交渉は、原告の親会社の担当者が関与したこともあるが、大部分は原告と被告明和監査法人との間でなされた。

証拠<省略>

(五) 原告の社員である親会社では、毎年二月に行うべき原告の社員総会を原告の監査報告書が提出されてから行い、その社員総会議事録の日付を、実際の社員総会の日付より遡らせて二月に行われたかのように記載していた。

証拠<省略>

右に見た事実関係からみると、本件の監査の依頼は、親会社が子会社の事業内容を把握することと、原告がその定款に基づき社員総会に監査報告書を提出することとの二つの目的を同時に実現するためになされたものであり、原告の定款の内容は、被告においても承知していたものと考えられること(<証拠>)と、監査報酬は原告が支出することが約束されていることなどを考慮にいれると、本件の監査契約は、原告と親会社の双方が依頼して締結されたもので、原告も契約当事者となっていたものと認めるのが相当である。

親会社が監査について独自の利益を有するということと、子会社もまた監査について利益を有するということとは矛盾せず、親会社からの委嘱状が存在することは、右の認定を妨げるものではない。

二争点2(監査人の適正意見の表明と損害賠償責任)について

監査人の適正意見は、不正行為が存在しない旨を証明するものであり、そのような意見を付したのに不正行為があれば、監査人は、そのことだけで損害賠償の責任を負わねばならないものかどうかについて判断する。

財務諸表監査においては、監査人は、財務諸表の適否について意見を表明するにすぎず、財務諸表の正確性や特定の客観的事実(例えば被用者の不正行為のないこと)の存否を証明するものではない(<証拠>)。

したがって、監査人の適正意見が不正行為の不存在の証明に当たることを前提とする原告の見解は採用できない。

ところで、財務諸表の監査が不正行為発見を目的とするものかどうかについては争いがある。

近代監査は、財務諸表の適正性または適法性を監査するもので、被監査会社は、従業員の不正防止の機能を公認会計士に依存することはできない、不正発見を目的とすると、その監査費用は企業の負担できないものとなり、また、それだけの費用をかけても発見できないこともあって不都合であるとする意見がある(河合秀敏・現代監査の論理(<証拠>)、上田和彦・内部牽制マネージメント(<証拠>))。

これに対し、従業員の日常業務から生ずる不正または誤謬を摘発することも副次的な目的であるとする意見がある(上田和彦・内部牽制マネージメント(<証拠>)、三澤一・会計士監査論13頁(<証拠>))。この意見のなかで、監査人は、企業の内部統制組織が整備され、有効に運用されていることを確かめたならば、内部統制システムによって予防または摘発される重要な不正誤謬の存在の可能性は極めて乏しいと判断できるので、監査人の主要な関心は、内部統制のシステムの外に生じる不正誤謬に向けられることになるとの指摘(日下部與市・新会計監査詳説19頁(<証拠>))は、示唆に富む。

そして、一九七七年一月のアメリカ公認会計士協会監査基準委員会監査基準第一六「誤謬または不正の発見にかかる独立監査人の責任」(<証拠>)は、次のようにいう。

「一般に認められた監査基準の下で、独立監査人は、監査過程の固有の限界内で、財務諸表に著しい影響を与えるであろう誤謬、不正を発見すべく監査計画を立案し、監査の実施に当たり然るべき技術を駆使し、正当な注意を払う責任を有する。」

以上の所説をもとに検討すると、たとえ財務諸表の監査が被用者の不正行為の発見を主な目的にするものでなく、また適正意見の表明が被用者の不正行為のないことの証明をするものでないとしても、財務諸表に著しい影響を与える不正がないことを確かめるのでなければ、財務諸表の適正性に対する意見の表明が無意味になる(山桝ほか・新訂増補監査基準精説一八頁(<証拠>))ことに変わりはなく、また、独立監査人は、一般に認められた監査基準の下にという範囲内と、監査過程の固有の限界内に限られるのではあるが、財務諸表に著しい影響を与えるであろう誤謬、不正を発見すべく監査計画を立案し、監査の実施に当たり然るべき技術を駆使し、正当な注意を払うことが可能であり、またそのような手続きによって監査を行うことが期待されているものと考えられる。

このような点を考慮すると、監査人が被用者の不正行為を看過したまま適正意見を表明したというだけでは、責任を負ういわれはないが、職業的専門家の正当な注意をもって監査を実施するという前記のような本来なすべき手続きを怠り、その結果被用者の重大な不正行為を看過したときは、監査人は、監査の依頼者に対し、それによって生じた損害について賠償すべき責任を負うものと解するのが相当である。

三争点3(監査実施上の注意義務)について

被告明和監査法人において、定期預金証書等の実査をし、預金残高証明書を直接入手すべき義務があったかどうかについて判断する。

1  不正行為発見依頼の有無等

まず、本件監査契約において、監査の対象に資産の担保差入れ(入担)状況などを記載する付属明細書が含まれていたかどうか、及び被用者の不正行為を発見するよう依頼されていたかどうかについてみると、次の事実は、当事者間に争いがない。

(一) 原告から被告明和監査法人に依頼されたのは、証券取引法または株式会社の監査に関する商法の特例に関する法律によって法律上強制された監査ではなく、また、原告から被告明和監査法人に監査を求められたのは、貸借対照表と損益計算書のみで、付属明細書は、監査の対象ではなかった。

(二) 原告から被告明和監査法人に対して、被用者の不正行為の発見、摘発等の特別の依頼はなかった。

そして、山上一夫鑑定人の鑑定の結果(一回9項)によれば、今日の財務諸表監査の重点は、企業会計における期間損益計算の妥当性の検証にあることが認められる。

右の諸点からすると、不正行為の発見は直接の依頼の内容ではないが、通常の監査手続きを実施する中で、不正行為が発見できるならば、これを見逃さないように求められていたものと認めるのが相当である。

2  監査対象である会社の種類と法律制度の差異

原告は、有限会社である。そこで、監査の対象である会社の種類によって、定期預金の入担の有無に関して、監査の手続きに法制上どのような違いがあるかについて検討する。

(一) 証券取引法及び財務諸表規則の適用の有無

まず、株式の公開されない有限会社の監査には、証券取引法及びその下位法令である財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(財務諸表規則)は、適用されない。

(二) 商法計算書規則の適用の有無

株式会社の貸借対照表、損益計算書及び付属明細書に関する規則(商法計算書規則)は、株式会社に対する規制であって、有限会社には適用されない。

(三) 企業会計原則の法的拘束力の有無

次に、企業会計原則第三貸借対照表原則一Cは、資産の評価の基準、固定資産の減価償却の方法、受取手形の割引高または裏書譲渡高、保証債務等の偶発債務、債務の担保に供している資産等企業の財政状態を判断するために重要な事項は、貸借対照表に注記しなければならないと定める(<証拠>)。

(1) そこで、企業会計原則は、意見にとどまるか、それとも法的な拘束力のあるものかを検討する。

昭和二四年七月九日経済安定本部企業会計制度対策調査会中間報告「企業会計原則の設定について」は、次のように述べている(<証拠>)。

企業会計原則は、企業会計の実務の中に慣習として発達したもののなかから、一般に公正妥当と認められたところを要約したものであって、必ずしも法令によって強制されないでも、すべての企業がその会計を処理するに当たって従わねばならない基準である。

企業会計原則は、公認会計士が、公認会計士法及び証券取引法に基づき財務諸表の監査をなす場合において従わなければならない基準となる。

このような文言からみると、拘束力のあるもののようにみえる。

しかし、証拠によれば、次の事実を認めることができる。

ア 企業会計原則は、啓蒙的な学理学説を含むものであった。

証拠<省略>

イ また、法令と一致しない点があった。昭和三七年に企業会計原則を大幅に取り入れた商法の改正があったが、商法の計算規定は、いまだ企業会計原則と矛盾する部分を残していたので、企業会計原則を修正しなければならないこととなった。(「企業会計原則の一部修正について」昭和三八年一一月五日企業会計審議会)

証拠<省略>

ウ 企業会計原則は、上場企業において適用されることを前提としている。

証拠<省略>

エ 大企業は、必ずしも企業会計原則通り財務諸表を作成しているわけではない。

証拠<省略>

以上の点からすると、企業会計原則には、法的な拘束力はないものと考えられる。(<証拠>)。

(2) 法律の明文上企業会計原則に法的な拘束力があると定められていなくても、企業会計原則に基づいて財務諸表を作成すべきものとする商慣習があるときは、法的な拘束力が認められる(商法一条参照)。しかし、そのような商慣習の存在を認めることはできない。

(3) 次に、総則規定として有限会社にも適用のある商法三二条二項は、公正な会計慣行を斟酌するよう定めている。この公正なる会計慣行とは、企業会計原則を指すとして、企業会計原則に基づく作成義務を肯定する見解がある。しかし、商法三二条二項は、法文に規定のない事柄についての解釈基準であって、法文の上で貸借対照表に入担の注記をする義務がない有限会社については、入担の注記の義務があるかどうかの点については、適用がないものと解するのが相当である(<証拠>)。したがって、「公正なる会計慣行」に企業会計原則が含まれるかどうかの点は、本件の結論には影響がないこととなる。

(4) 以上の検討をふまえて判断すると、有限会社において作成すべきことが法定されている財務諸表は、個別に商法の規制を受ける以外は、一般の会計慣行に準拠すれば足り、その会計慣行には、必ずしも企業会計原則の全体が含まれるのではないというほかはない(<証拠>)。

(四) 監査基準、監査実施準則等の適用の有無

次に、中小企業に対する任意監査には、企業会計審議会が答申した監査基準、監査実施準則、監査報告準則が適用されるかについてみる。

昭和五一年七月一三日大蔵省企業会計審議会の「監査実施準則及び監査報告準則の改訂について」は、監査基準、監査実施準則及び監査報告準則は、職業的監査人が財務諸表の監査を行うに当たり、遵守すべきものとして設定されたものであるとする(<証拠>)。

しかし、この監査基準、監査準則は、証取監査用のものであり(<証拠>)、中小企業に対する任意監査にこの監査基準、監査実施準則等に基づき監査を実施する旨の商慣習があるとも認められない(<証拠>)。そうすると、原告のような有限会社に、この監査基準、監査準則等が、全体として、常に適用されるものではないと認められる。しかしながら、そのことは、監査基準、準則に盛られた監査に関する一般的な原則が、原告のような有限会社の監査について適用されないということを意味するものではない。

3  内部統制組織の不備と監査の関係

以上の検討の結果からみると、原告会社の法定の監査のあり方としては、定期預金の入担の有無について監査がなされるべきであったということはできない。しかしながら、法定の監査ではなく、被監査会社及びその親会社の依頼によって、任意監査を実施する場合に、いかなる内容の監査をするべきかは、一般的な監査慣行により画一的に定まるものもあるが、それだけでなく、その会社の内部統制組織の程度などとの関係において決定されるべき各個具体的な問題もある。そこで、内部統制組織の不備と監査との関係について検討する。

証拠によれば、監査基準及び監査実施準則は、次の通り定めていることが認められる。

監査基準 第二 実施基準 二 監査人は、内部統制組織の信頼性の程度を勘案して、試査の範囲を合理的に決定しなければならない。

監査基準 第二 実施基準 三 監査人は、財務諸表に対する意見を表明するため、監査対象の重要性、危険性その他の諸要素を十分考慮して、合理的な基礎を得るまで監査を実施しなければならない。

監査実施準則 第一総論 四 監査人は、監査契約を締結するに先だって監査の実施が可能であるかどうかを調査しなければならない。内部統制組織が著しく不備であるため、監査実施の基礎条件が成熟していないと認められる場合には、監査契約の締結を見合わせるかまたは一定期間を限り内部統制組織改善のための指導を行なうことが望ましい。

証拠<省略>

監査基準、準則自体は、証取監査を念頭において定められたものであるが、必ずしもそのすべてが中小企業における監査に当てはまらないものではないと考えられる。監査基準、準則の右の部分は、会計監査と内部統制との一般的な関係をもとに作成されたものと考えられ、そのような関係は大企業におけると中小企業とにおいて共通に存在するのであるから、企業の経理組織に内部統制上の不備があるかどうかが、監査人がなすべき監査手続きにも影響するものと解するのが相当である。

4  原告会社の経理組織

そこで、原告会社の経理組織がどのような状況にあったかを検討する。

証拠によれば次の事実を認めることができる。

(一) 被告明和監査法人の加藤利勝は、昭和四七年に代表取締役印の保管及び捺印方法を改善するよう原告代表取締役のインゲンホフに進言したが、同人は改善しなかった。

証拠<省略>

(二) 昭和五六年八月日本公認会計士協会監査第一委員会では、内部統制について詳細な検討を経た内部統制質問書の様式を作成しているが、原告会社においては、殆ど内部統制らしきものがなく、おそらくこの質問がなされたならば、ほとんどの項目において内部統制上問題があるとの評価がなされたものと考えられる状況にあった。

証拠<省略>

(三) 甲野と鈴木歌子との二名ですべての経理事務を行っていた。そして、二人の間にはなんらの牽制関係も設定されていなかった。

証拠<省略>

(四) 甲野が印鑑類、手形小切手帳、通帳、証書、受取手形のすべてを保管していた。

証拠<省略>

5  内部統制組織が不備である場合の監査手続き

そこで、内部統制組織が不備である場合の監査手続きの内容について検討する。

まず、内部統制が不備であるときは、被用者の不正行為の発見を直接の目的とする監査手続きをなすことが義務となるかについてみる。

被告は、内部統制が不備であるときの対処の方法は、試査の範囲の拡大であり、特約がない限り、不正行為の発見を目的とする特別の監査手続きを採用する義務はないと主張する。そして、鑑定人山上一夫は、同じ意見を述べる(<証拠>)。確かに、内部統制が不備であるというだけでは、被用者の不正行為の発見を直接の目的とする監査をすべきであるとまではいいえない(<証拠>)。しかし、本件の定期預金の監査の事務量からみると、これを試査によらねばならない事情は発見できないから(<証拠>)、内部統制が不備の場合の対処が、常に試査の範囲の拡大によるべきであることにはならない。そして、通常の監査手続き自体すでに副次的にせよ不正の発見を目的としているのであるから、通常なすべき監査の手続きを慎重、かつ、厳格に実施するというような監査手続きの実施面では、内部統制が不備であるかどうかで異なってくるものと考えられる。

この点について、被告らは、不正行為の発見摘発を目的とすると、財務諸表監査であることと矛盾するかのようにいうが、監査手続きの実施面で慎重、かつ、厳格になったからといって、財務諸表監査の実現が阻害されることは考え難い。

また、被告らは、特別な精密監査をすることによらねば、不正は発見できないかのように言い、不正行為の内容如何ではそのような事例も考えられないではない。しかし、本件の場合は、定期預金について監査するのに、試査によらなければならないような大量の事務は存在せず、本件のような不正行為が、通常の手続きを厳格に実施しても、発見できないような不正であったとの証拠はないから、被告らの右の主張も採用し難い。

6  定期預金通帳等を実査することの意義

そこで、定期預金通帳、証書を実査することの意義について検討する。

現金預金の監査の目的は、企業の所有する現金預金が、帳簿や貸借対照表に記載されているとおりに実在し、しかも実際に利用可能であるかどうかを確かめることにあるとされている(<証拠>)。

被告は、本件監査の実施された昭和五三年当時は、わが国の金融機関は、譲渡性定期預金(CD)を取り扱っていなかったから、定期預金の入担の有無を監査要点とする場合にのみ、定期預金通帳を実査することが必要となると主張する。

しかし、定期預金について正式の譲渡が法律上不可能であるとしても、印鑑押捺の上、通帳や証書の占有を移転する、あるいは通帳、証書を相手方に渡しその受領の代理権を与えるなどの方法で、実質上担保に入れたり、譲渡することは可能であり、実際にも行われている。そして、このように権利の移転等を目的として通帳等を相手方に交付し、その結果通帳等が存在しない場合には、権利の帰属関係についての法的な解釈としてはなお問題があるとしても、当該の定期預金がいまなお利用可能な状態にあるということができないことは明らかで、そのような定期預金の実在性の観点から見るときは、正式の譲渡の場合と異なるところがないのである。そうすると、定期預金には、法律上譲渡などはありえないとして、担保に入れているかどうかを監査する場合にのみ、通帳等を実査すれば良いと即断することはできないものといわねばならない。

そうすると、監査実施準則が、預金の監査手続きを定めるのは、単に定期預金の入担の有無のみを確認するだけでなく、実質的な観点から定期預金の実在性の有無について検討し確認することをも目的としているものと考えられる。そして、その預金の監査手続きに関する準則の中で、証書、通帳を閲覧する(実査する)ことが掲げられていることの意義は、定期預金の払い戻しを受けるのに、その通帳、証書の所在が特別な意味を持つことに照応しているものであると考えられる。

日本公認会計士協会東京会編・監査と経営診断二二七頁(<証拠>)は、「(5)預金のうち借入金の担保その他の理由により証書又は通帳を保管していないものはなかったか。」として、担保以外の理由で預金が事実上処分されることがある実態を示している。

7  定期預金通帳等を実査する義務

そして、原告程度の企業の監査において、定期預金についてその通帳や証書を実査することにそれほど困難が伴うものでないことは明らかであり(普段の監査においては被告明和監査法人は、通帳等の実査をしていた。<証拠>)、そのような慎重な手続きを採用したからといって、本件の原告程度の企業では、監査費用が増加することがあるとしても、それはいうほどの額にはならないのが通常である。

他方、原告の内部統制組織の現状についてみると、前記のように原告会社の内部統制組織は無きに等しいばかりでなく、手形小切手帳や代表者の印鑑類まで経理担当者の手中にあるという点では、不正行為を誘発する可能性があるという意味で、わが国における一般的な企業におけるよりも、不正の危険が高い状況にあったものと認められる(<証拠>)。

このように内部統制組織に大きな不備があり、従業員の不正行為を誘発する可能性が存在した状況からみるならば、特に負担とはならない定期預金証書等を実査するという程度のことは、職業的監査人としては当然になすべきものであって、それさえも怠るとすれば、職業的監査人の正当な職務執行に期待してなされたものと考えられる本件の監査の依頼の趣旨に背くものであったと判断される(<証拠>)。

8  預金残高証明書の直接入手の義務

次に預金残高証明書の直接入手の意義について検討する。

被告らは、我が国では、被監査会社が取引先金融機関よりその作成した期末日現在の預金残高証明書を入手して、これを監査人に提出するのが監査慣行となっている、といい、そのような間接的な確認が一般的であるという文献及び供述もある(<証拠>)。

しかし、本来慣行とは、そのように取り扱うことを良しとする法的な評価を伴うものをいうのであり、そのような取扱いをしないのを良しとするというのは、そのような取扱いをしなかったために、損害を与えたとしても、その責任を問うべきでないとする一般的な法的な確信があることをいうのである。単にそのような取扱の方が人間関係を大切にするという点で穏当であるとか、円滑な事務の処理に役立つとかいう観点のみで、多くの人々が採用しているというだけでは、そのように取り扱えば法的にも正当とされるという意味での慣行となったとはいいえないものである。

現在わが国の監査実務では、このような法的な評価を伴った一般的な認識があると認めるに足る証拠はなく(<証拠>)、被告の右の主張は採用することができない。

そして、次の文献は、期末預金残高の確認に当たっては、監査人は、銀行より銀行預金残高証明書を直接入手して、関係の預金出納残高と照合すべきものとしている。

船津忠正・勘定科目別新会計実務大系現金・預金一七九頁(<証拠>)日本公認会計士協会東京会編・監査と経営診断二二七、三一一頁(<証拠>)

日本公認会計士協会監査第一委員会研究報告第一号監査マニュアル(その2)(<証拠>)

四争点4(通帳等の実査及び残高証明書の直接入手の懈怠の有無)について

証拠によれば、次の事実を認めることができる。

1  争いのない事実等4の三井銀行からの二億円の借り入れは、原告の定期預金を担保とするものであったが、被告明和監査法人は、昭和五三年一月三〇日の監査手続きの実施に当たり、定期預金の証書、通帳を実査しなかった(この事実は争いがない。)。しかし、提出させていれば、右の銀行からの借り入れを発見できたものであった。

証拠<省略>

2  被告明和監査法人は、住友銀行の定期預金通帳を実査した。しかし、甲野部長が提出した通帳は、同人が銀行に対し紛失したこととして解約の経過を記載させないでいた通帳であったため、甲野部長が不正に振り出した手形を決済する資金をねん出するため、昭和五二年一二月二一日合計二〇〇〇万円の定期預金を不正に中途解約した事実は露見しなかった。

証拠<省略>

3  被告明和監査法人は、本件監査に当たり、直接銀行から残高証明書その他の証明書の原本を入手しなかった(この事実は争いがない。)。しかし、直接入手していれば、右の銀行からの借り入れを発見できた可能性がある。

証拠<省略>

五争点5(被告明和監査法人の取扱いについて違法性を否定すべき事情の有無)について

被告明和監査法人は、通帳の実査をしなかったし、直接預金残高証明書を入手することもなかったのであって、義務の不履行があると一応いいうる。そこで、被告明和監査法人がした取扱いがやむを得なかったなど、違法性を否定するに足る事情があったかどうかを判断する。

証拠によれば、次の事実を認めることができる。

1  原告会社は、その経費を注文主からの前受金で賄い、下請けに対しては前受金が入金してから下請け代金を支払えば足りるという特殊な業務内容であって、借入金を必要としない財務体質であった。

証拠<省略>

2  被告明和監査法人の大塚会計士補は、昭和五三年一月三〇日監査を実施した際、甲野に三井銀行日比谷支店の定期預金通帳の提出を求めた。甲野は、満期の書換えのため、銀行に預けてあると説明した。大塚会計士補は、すぐ取り寄せるようにいい、甲野は、銀行に行って、担当者に貸し出すよう求めたが、貸出を断られたので、定期預金の明細をコピーして貰い、これを大塚会計士補に提出した。そして、甲野は、大塚会計士補に対して、得意先係の担当者が通帳を預かっているが、病気で本日は休んでいると虚偽の説明をした。

証拠<省略>

3  三井銀行の定期預金の中には、満期のものがあり、甲野の説明の一部は、事実に符合していた。

証拠<省略>

4  大塚会計士補は、甲野に通帳を返還してもらうように指示した。甲野は、後で持って行かなかったが、そのままになった。

証拠<省略>

5  大塚会計士補が点検した当座照合表は、精巧に偽造されていた。

証拠<省略>

6  精巧な偽造であったとはいうものの甲野が偽の照合表をつくる際に、タイプミスをしたものがあり、照合表と元帳の記載にそごがあった。これに会計士は気づいたが、甲野は言い逃れをして、切り抜けた。

証拠<省略>

7  監査報酬は、年間一三〇万円であったが、これは標準報酬三〇〇万円の半額以下であった。

証拠<省略>

以上の事実を認めることができ、その中には、被告明和監査法人の注意義務違反の程度を減らす要因が存在する(<証拠>)。しかし、預金残高証明書を直接銀行から取得しなかったことについて、首肯するに足る事情は発見できないし、また、定期預金の通帳等について銀行から返還されればこれを確認し、実際にこれを検分するのでなければ、実査したとはいえないのに(<証拠>)、これを放置したについてやむを得ない事情は認められない。そうすると、被告明和監査法人の取扱いをやむを得ないとして、その違法性を否定し去ることは困難であって、その注意義務違反による損害賠償責任を否定することはできない。

六争点6(一)(過失相殺適用の可否)について

そこで、次に過失相殺の適用を否定すべきかどうかについて判断する。

経営者には、本来被用者の不正行為の防止義務があるから、これを怠ったときは、企業に対する損害賠償の義務がある。

原告は、監査人の損害賠償義務と経営者の損害賠償義務とは、別個独立の義務であり、経営者に過失があっても、その過失をもって、監査人の損害賠償額を過失相殺するべきでないという。

しかし、一般的にいえば、企業の事業遂行には、さまざまな危険が伴うのであって、従業員の不正行為もその一つの局面にすぎない。危険の発生は、企業の事業遂行に内在的なものであり、場合によっては事業の遂行自体が危険発生の土壌となっていることがあるのである。

それに、経営者は、日常従業員に接するなど従業員の不正行為を防止するについて、監査人よりもより適切な地位にあるのであって、その経営者が防止できない不正行為の発見を監査人に求めるのは、責任の分担として均衡がとれているか問題なしとしない。

そして、企業の所有と経営が分離されている場合でも、経営者と企業の所有者との関係は、監査人と企業の所有者との関係に比較するならば、はるかに密接であって、監査人からみるならば、経営者の過失は、企業の側の過失と評価できるのである。

このようにみてくると、従業員の不正行為によって損害が生じた場合において、企業の所有者は、その経営者の過失によって生じた損害の全部を、企業の外にある監査人に負担を求めることができなくても、やむを得ないものというべきであり、この点に関する原告の主張は採用することはできない。したがって、経営者に過失があるときは、損害賠償額の算定について、これを過失相殺として斟酌するべきものである。

七争点6(二)(原告の経営者の過失の有無程度)について

そこで、原告の経営者にどのような過失があったかを判断する。

証拠によれば、次の事実を認めることができる。

1  被告明和監査法人の加藤は、昭和四七年に代表取締役印の保管及び捺印方法を改善するよう代表取締役のインゲンホフに進言したが、同人は改善しなかった。

証拠<省略>

2  昭和五二年当時は、ムーライとブーライクが甲野経理部長を監督する任務を分担していた。

証拠<省略>

3  ブーライクは、ケルン大学の商学部を卒業した営業及び経理担当の取締役であった。

証拠<省略>

4  ムーライもブーライクも、日本の経済社会での手形や代表者印、銀行取引印の重要性を認識していた。

証拠<省略>

5  にもかかわらず、原告では、手形帳、小切手帳、印鑑などを経理部の金庫にいれており、甲野が自由に使用することができた。

証拠<省略>

6  会計帳簿は、英文で、しかもドイツで作成される様式に従って作られていた。ブーライクは、帳簿やファイル類をよくみていた。

証拠<省略>

7  甲野は、昭和五三年三月にすべてを観念し、当座照合表の偽造は馬鹿らしくてできない心境になり、それ以降偽造を中止した。

証拠<省略>

8  ムーライの机にも銀行からの当座照合表が提出されていた。しかし、ムーライは、これをチェックのため使用したことはなかった。

証拠<省略>

9  原告の勘定元帳の当座預金残高は、昭和五三年五月以降それまでの百数十倍にも増加していた。そのため、原告から親会社に送るマンスリーレポートの数字と勘定元帳の数字が大幅に違う事態となった(甲野は、それまで取締役が見ないことから勘定元帳の当座預金の金額は真実を記載していた<証拠>。)。ところが、ムーライやブーライクは、このことに関心がなかった。

証拠<省略>

以上認定したところにより判断すると、原告の取締役が銀行取引印や手形小切手帳を甲野に保管させ、手形小切手等の発行を同人に任せていたのは、監督上大きな過失があったものといわざるを得ない。また、原告の取締役が当座照合表や元帳などとマンスリー・レポートを見るなどの通常の監督をしていれば、少なくとも、昭和五三年四月頃には、甲野の不正行為を発見することが可能であったものであり、この点でも、過失があったものといわねばならない。

八争点6(三)(不正行為者の故意を理由とする過失相殺の可否)について

被告は、甲野は原告の従業員であり、その不正行為によって他人に損害を与えたときは、原告は甲野の使用者として、賠償の義務を負うのであるが、被告明和監査法人が甲野の不正行為を看過したことによって原告に損害賠償義務を負うとすれば、そのことにより被告明和監査法人に生じる損害について、原告は甲野の使用者として被告明和監査法人に賠償するべき義務を負うのであるから、甲野が故意に不正行為を働いたことも、被告明和監査法人が賠償すべき義務の範囲を定めるに当たって、過失相殺として斟酌するべきであると主張する。

しかし、監査人が監査対象である会社の従業員の不正行為を看過して、会社に損害を与えた場合に、その損害を賠償する責任を負うのは、監査人が監査契約によって依頼された事務を履行しなかったためである。そして、監査契約により監査人が依頼される事務の中には、従業員の不正行為による会社の損害を一定の手段方法の範囲内ではあるが防止すること自体が含まれていたからである。したがって、監査人が会社の損害を賠償すると同時に、賠償したことによる監査人自身の損害の填補を、監査を依頼した当の会社に求めることができるとすれば、結局は、監査人は賠償責任を負わないでよいということになり、従業員の不正行為により会社に損害が発生することを防止する意味で結ばれた監査契約は意味をなさないこととなる。したがって、監査契約の不履行を原因とする賠償義務の履行によって監査人に生じた損害は、監査を依頼した会社が賠償すべき損害ではないものといわねばならない。したがって、従業員の不正行為を理由に会社に使用者責任を追及することが可能であるとする被告らの主張は、採用することができない。

そして、従業員の不正行為を監査を依頼した会社側の過失相殺事由の中に含め、その故意過失の程度と監査人の過失とを比較考量して、監査人の損害賠償義務の有無程度を定めることは、従業員の不正行為を防止し会社の損害発生を回避することが契約の目的に含まれているにもかかわらず、その契約の効力の発生を否定し、あるいは制限するに等しいのであって、契約の趣旨を制限的に解するのでなければ、正当化することはできないものである。しかし、監査契約の趣旨をそのような制限されたものであると解すべき根拠を見いだすことはできない。

以上のとおりであって、監査契約で防止すべきものとされた従業員の不正行為の存在を理由として、監査人の賠償責任を制限する過失相殺をすることは許されないものといわねばならない。

九争点7(損害)について

原告が、甲野の不正行為によって昭和五三年二月二一日以降に被った損害について判断する。

証拠によれば、次の事実を認めることができる。

1  甲野は、昭和五三年二月二〇日以降次の手形を不正に振り出し、乙山二郎に交付した。これらの手形の満期日は、昭和五三年八月一日以降であった。

八四枚 五億四二〇八万九〇〇〇円

証拠<省略>

2  乙山は、昭和五三年二月二一日から同年七月三一日までの間に、甲野が昭和五三年二月二〇日までの間に原告会社名義で不正に振り出し、乙山に交付していた手形の決済資金として次の金額を原告会社に送金した。これらの決済資金は、上記1の手形を換金したものを、乙山が、昭和五三年二月二〇日以前に交付を受けた手形の決済資金として、原告に入金したものである。

この金額は、昭和五三年二月二一日以降に甲野の不正行為によって乙山が取得した手形を原資として、昭和五三年二月二〇日以前の甲野の不正行為による原告会社の損害を補填したものであるが、被告らは、昭和五三年二月二〇日以前の時期の損害について責任はないから、この金額を、昭和五三年二月二〇日以後の損害から差し引くべきものである。

三億一〇六四万二〇〇〇円

証拠<省略>

3  乙山は、昭和五三年八月一日から昭和五四年一月三〇日までの間に、1の手形の決済資金として、次の金額を原告会社に送金した(内訳明細は、原告平成二年一一月二一日準備書面別表四)。

この金額は、被告らが責任を負う昭和五三年二月二一日以降の損害から差し引くべきものである。

四五〇一万円

証拠<省略>

4  原告は、1の不正に振り出された手形について、その所持人から次のとおり、手形金支払債務の免除を受けた。

所持人   免除額

波田 二三八九万円

丸ビル短資 一〇七万九〇五三円

トーコン(株)、鍋谷 四五五万六〇〇〇円

(株)千歳ゴルフサービス 三〇〇万円

以上合計 三二五二万五〇五三円

証拠<省略>

5  甲野は、昭和五三年二月二一日以降に、次の原告会社の受取手形等を横領し、乙山に交付した。これにより原告は、同額の損害を受けた。

昭和五三年二月二八日 一億円の約束手形

昭和五四年一月二〇日 二〇〇〇万円の小切手

同年一月二五日 三五〇〇万円の小切手

昭和五三年七月三一日 五万一九六五円の小切手

以上合計 一億五五〇五万一九六五円

証拠<省略>

6  乙山は、次のとおり原告会社に弁償した。

昭和五四年一月三一日から昭和五四年二月二八日までの送金

(その内訳は、原告平成三年一月一四日準備書面添付乙山よりの入金明細書(三)) 六〇〇〇万円

競売配当金 一〇〇〇万円

以上合計 七〇〇〇万円

証拠<省略>

以上によれば、昭和五三年二月二一日以降の甲野の不正行為による損害は、1の五億四二〇八万九〇〇〇円及び5の一億五五〇五万一九六五円の合計額六億九七一四万〇九六五円から2の三億一〇六四万二〇〇〇円、3の四五〇一万円、4の三二五二万五〇五三円及び6の七〇〇〇万円の合計額四億五八一七万七〇五三円を控除した残額二億三八九六万三九一二円であると認められる。

被告らは、原告は、乙山グループからの買い掛け金四一一万二八八三円について、昭和五三年八月三一日相殺処理をし、その支払を免れることにより、その分の返済を受けていると主張する。しかし、原告は、乙山に対して、昭和五三年二月二〇日以前に発生した損害賠償債権を有していたのであり、この相殺が、右の損害賠償債権との相殺ではなく、昭和五三年二月二一日以降に生じた損害賠償債権との相殺であったとの証拠はないから、右の被告らの主張は採用できない。

被告らは、乙山が昭和五四年四月二五日金四七万九九二八円を弁償したと主張する。しかし、その事実を認めるべき証拠はない(原告平成三年一月一四日準備書面四参照)。

被告らは、1の甲野の振り出した手形のうち、九九〇七万五〇〇〇円は、甲野の不正が発見された昭和五四年一月二七日より後の昭和五四年一月三一日に発行された手形帳の約束手形用紙を利用して発行された手形であって、原告の同意のもとに振り出されたものであるから、甲野が不正に振り出した手形ではない、したがって、原告にはその分の損害は生じていないと主張する。しかし、被告らの主張する手形の手形帳発行日は、<証拠>によれば、昭和五四年一月三一日ではなく、昭和五四年一月一三日であると認められ、甲野の不正が発覚してから原告の同意のもとに合計九九〇七万円余の手形が発行されたのではないといわざるを得ないから、被告らの右の主張は採用しない。

被告らは、昭和五三年七月三一日に現金で支払われた金五万一九六五円は正規の支払いであり、甲野の不正行為による損害ではないと主張する。しかし、そのような事実を認めるに足る証拠はない。

なお、原告は、損害を受けた資金についてこれを運用することによりうべかりし利息を損害であるとして請求している。しかし、原告の損害については、損害発生のときから、遅延損害金が発生するのであり、そのほかに右のような利息を損害としてみると、損害を二重に計上することとなる。したがって、原告のうべかりし利息の請求は理由がない。

一〇賠償すべき額

五で認定したとおり、被告明和監査法人の取扱いについて、その違法性の程度を減殺する事由が存在する。これに対し、原告の経営者には、七で認定したとおり、過失があり、その程度は大きく、かつ、経営者が相当の注意をしていれば、早期に不正行為を発見することができ、請求されている損害の大部分の発生を未然に防止できたのである。そうすると、右九の原告の損害二億三八九六万三九一二円のうち、その八割を過失相殺により減額するのが相当であると認める。そうすると、被告明和監査法人が原告に賠償すべき金額は、四七七九万二七八二円となる。

一一社員の責任

被告明和監査法人が、右に認定した損害額を支払う資力がないと認めるべき証拠はない。したがって、明和監査法人の社員である被告らに対する請求は、理由がないものといわねばならない。

一二東京海上に対する請求

そして、右一一と同じ理由で、被告東京海上に対する、債権者代位による請求も理由がない。

(裁判長裁判官淺生重機 裁判官岩田好二 裁判官森英明)

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